追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

霧寂の過る繊細さと甘さ 折にそこに生けるものの激しい情動と

何処へと
吸い寄せられるよう
すうらりと流れる



朝霧に梳かれ艶剥け
弛い色鉛筆の
スケッチにも似た



かすれた風景のなか
暗色で身を包んだ
自分が佇む




顔前には
節くれ立つ梢がそそと
横疎らに伸びだし



その腹と赤緑の
錆ゆく尖った葉先へ
まるい雫を携え
そっと光らせる



濡れた舗装路に
ずらさず置いた足許から



滑らかに延びゆく
濁り池面の前方には
白銀の踊る風波が




 右手奥で陰掻き
 跳ねる、軽い響きが
 しなやかな
 一輪の波紋を作る



 瞬間が蕩蕩と震える




水面の最外端を
何気に見詰めると
淡枯れ草を
背にのせた長堤



程近い左向こう
なだらかに降る
ぎざつく裾線がくっきりと
くすんだ空に
切れ込みを入れて



その彼方には
毬藻のような
小山がまるで
幽体のように盛りあがる




 じっと眺めていた
 どんな答えも
 求めないまま
 考えてもいた
 思い出せないでいる
 胸底に沈む
 何かをずっと



 目の前にはだけ
 莫と広がる
 乾きながら暮れゆく
 季節の景色より
 あの時
 僕はもっと先を
 続き開ける未来を




湿った空気の匂いが
鼻孔をふうわり逆昇る




 と
 重たい破裂音が
 まるで
 産声のように放たれ



 持ち上がるのに気づき
 眼は素早く
 曲扇形の内脇を視る



 黄いろい胸を
 目一杯に仰け反らせ
 黒い大魚が宙空に



 投げ落とされた
 かのように
 勢いよく飛び上がる




忙しい
群鳥達の目醒めだす
つぶさな声が



静か森から届き出し



南天を高く
視線で辿れば
隠れ陽が空に透け始め
平敷き雲を薄い黄金に
ぽつと
撫ぜ染めていく

Another fall

広く続くばかりの空で
斑に伸べる
鈍色の群雲達に



強い陽熱の
遮られた緩い早朝



そこから漏れだす
一本の優しげな光が



池面に流れる
淡い蒸気霧と静けさ
美しく包み照らし



山中に開けた
見晴らしのよい場景を
クリアに浮きぼる




長息をひとつ放し
何げに俯く視線



足許に吹き溜まる
カラフルな
秋の落ち葉は、まだ



湿ったまま
靴底に砕けず



見回せば頭上を
淋しそうに彩る
いつの間に



ひっそりと染まりゆく
桜並樹の
廃れ葉の群れ



切ない華やかさと
零れおちそうな哀愁




細やかに転がる風が
留まる頬にフロウ



胸焼け起こしそうな
昨今の電波ニュース



明日には簡単に
リセットされる世界



かさつく季節は
移ろいながら
僕だけは変わらずに


















*Another fall
 (アナザー・フォール)…もう一つの秋。

諸々のタスクは無常に至れり

純愛映画かなんかで
感傷に浸り
瞳を潤ませる刻も割けず



ただ、胸身に
ひたすらになだれ込む
苦い重みをしょって



辛い登り坂道を
もくもくと歩き続ける




先は東雲、帰りは暗闇
水鳥が不意つき
飛び去るように



隙の狭い
スケジュールにせっつかれ



過ぎゆく日々また日々




心太を食べ忘れ
ビーチにもいかず
でも真っ黒に日焼けした肌



六百ミリリットル
ペットボトル三本分の
麦茶を来る日もがぶ飲み



仕事の終いに頂いた
差し入れのかき氷
痺れるほど沁みる冷たさが



夏らしい夏の思い出



少しだけ
薄まった陽射しに
ありがとさん



心細くなるほど
寒くなった宵風に
こんばんは



秋刀魚はまた値上がり
今年も一尾は
買っておきたいと



信号待ちで想い巡らす



蛇行する田舎峠を
急下降して
本道の渋滞を逃れ抜け



本日もかけがえのない
拠り所目指し
時を追い駆け長い家路