追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

寄り立つよるべに幸せのカケラ

澄み拡がり
明るさに満ちた
十一月の空を渡る 逸れ雲は
長閑なパントマイム
気まぐれに浮かべ漂う


森を辿る
なだらかな曲がり路で
褪せた黒の毛皮を纏うスリムな旅猫
愛らしい撫で声 ひとつだけ残し
気品を湛えた足どりで
側溝の傍をしなやかに歩み
白やつれの増えた草むらの中へ
ひっそりと姿を消して


まだ小さな赤蜻蛉が
足元の細い枯れ枝のうえ
零れ紅葉のように ゆらり降りとまり
やわらかな陽光を浴びながら
透き通る翅 静かに休める



 冷たいはずの秋の風は
 温かな指先に触れるような優しさで
 しゅるら、ちゅるらと舞い游ぎ


 ひなびたアスファルトを横切る
 落ち葉はふわりと軽く
 からからと捲られながら
 少しだけ 愉しげに転がった



ふっと現れ
純朴を演じる脇役たちの
ささやかなドラマ
疲れた胸に沁みこんで
繰り返される 日々に積もった蟠り
じわり解され すうっと宙へ
高く離れて薄まり消える



ありふれた時はいつも
無口なままに
ひた向きに未来を目指し
絶えまない瞬間を縁どりながら
まるく繋がる 世界に結んで


穏やかに開ける景色は
ゆっくりと
新たな季節へ注ぎ そっと
明日に延びゆくキャンバスを塗り替えながら
遠く、果てなき物語
織りなすように廻っていく

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