追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

冴え澄む冬日は戻らずに翔る

固いプルタブに
圧されて跳ね上がり
淡く香る ソーダ水の細かな気泡が
渇いた喉へとくとく運び転げ
愉快に弾けるように
冷たく吹き競う潮風は
艶めく深い エメラルドを想わせる 
水面を乱し踊らせながら
その漣を煌めかせて止まない


遠き過去に洗われた
戦渦の面影が入り混じる
弓なりに広い 賑やかな港街の
大きく開いた河口から望む
延びやかに抜ける海原に
駆り立てられた気は
颯爽と走りだし 勢いに乗り
しなやかに翼を伸ばして
透き徹す彼方に向かい
そう、真っ直ぐに 歪みなく羽ばたいて



 粉雪がちらりと舞い惑う
 痺れるような寒さと
 長く隔たる距離を越え
 昼間のめくるめく出来事と
 縦横へ飛び交う雑音に紛れて見失った
 この胸にじわり 寄せては揺れる
 微かな ささめきの在りかを
 すっと 
 眠りに落ちるその前に
 振り返り眺める
 慌ただしくも穏やかに過ぎた
 ささやかで それでも確かな
 薄い小旅のページに探す



やわらかく
そして静かに漕ぎだすよう
明くる朝陽は昇り
すべらかな景色へ鮮明に浮かび映ゆる
散り終えた極彩色の
流れるような山肌に目醒めた
昨日の記憶は
淀みない蒼空と温かに降りそそぐ
眩い光にふわりと描かれ
指先に摘まみ含んだ
板チョコレートの欠片のように
ゆるり滑らかに溶けて
しっとりと途切れ
放れては霞む


心伝う
仄かな苦み
ふっと優しくほろり零して
抱くように そっと
重ね合わせる睫の先に
いずこへの無垢な焦がれ 残したままで

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