追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

騒めきの外れで ーただ、儘に添わす心の色を

澄みやかに綴られる
軟らかに冷やり
滑らかでいて 
そして、しめやかに通す
山気の海を 漕ぎ進み


うねる螺旋の帯
無暗に振り伸ばしたような
峠路、とつと逸れて
行き足と追い熱 途中へ置き残し
未だ、囀りの届かない
森なかを歩み降る
人影なき長い坂道に
葉なし並樹は
ゆったり、すらと 流れ過ぐ



 香り立つように
 心地よい朝の陽差しは
 程高く、斜に掛かり
 


ほごり藪に囲われた
径を辿る頂きに つと
霞に青く暈されて
波うつ連なり 普く盛られ
しなやかに
眺めへ染めて浮き聳ゆ


ざくり、と音潰る
踵の日陰に霜柱
寓話に営む小人の
密かな 隠れ家のようで



 弧を寝かす 
 僅か切り爪ほども幅のない
 あの幼気な冬芽たち
 裸の細い枝越しに
 どんな春を 夢見て眠るのだろう、か


 徐に踏み返す
 憩い屋根ひとつ、佇む開け場に
 黄白い沙めく枯草
 寒々とはだけ 足許に散り撒け、転げ
 その解け身で 何を想い、移ろいに託して
 煽り風に捲られて往くのだろう、と


 また新たに 
 そよぐ季節を手繰るよう
 紅は仄かに ほつと 
 端辺に生ける
 慎ましき、常緑の繁みを縁どり
 乾き抜ける場景
 そふと 温めるかのように



緻密な回路が
隈なく 瞬間を刻む世界で
透き放される 時の空白に
溶け込んでしまいそうな
いつかの束の間に
成り果てる前の、今の間も



撫で下ろす吐息
漫ろう 宙へと舞い発ち
ひっそりと弛まない鼓動
縺れもせず 胸の内で
とくん、と微か弾むよう 悠と


とほり、震え落つ雫
か薄い拭き布へ じわら伝い
滲み広ぐように
しっとしと和む
安寧を紡ぎつつ 響き、游けながら












追い熱…歩いた後や走った後に訪れる火照り。
ほごり藪…ほどけ乱れている藪。

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