追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

暑き日々と 雫

刹那と言う名の
あともう少し 届きそうに
差しだす指先から逸れた
永遠を流れる夢が
綺羅びやかな万華鏡のように
細目の瞳へ咲く 午後



照りつける天球の
坂道から逃れ着く 小部屋の陰に
吹きだすよう汗ばむ胸へ 
籠る熱
薄く曇った窓硝子に透かされる
繰り返す朝陽に焼けた
高い生け垣の
眩く光り さわと揺らぐ、
冴え黄の葉が時を忘れ見詰めさせた



滞りなく
積み重ねる 毎日が捲る
盛る夏への窪み、
ことのほか浅く
すぐ隣へは引き戻せない
消え去ったもの
ありふれた暮らしの面影が ゆっくりと
力の抜けた肩越しを
通り過ぎてゆくようで



すっと
振り向いた先には
くぐもる靴音を弾く
古めかしい 剥け痕まみれの内壁板
そのすき間へ
とても静かで 穏やかにそよぐ
見果てぬ草原の景色が 
湧きだすように現れ
しなやかな姿を薫らせて
延びてゆく、彼方に そっと



かたん、と滑り落ちた
ボールペンが
浮いた気を素に戻し
生クリイム色に擦れ負けた
ざらつく 足元の床へ 転がって 
片腕を伸ばす 屈んだ長机の奥まりで
ふと 飴玉の小袋を探し当てるように



拾い上げる
艶やかな夕暮れの映し出す
西の空は また少しだけ、
追懐に滲んで いつしか
すべらかな藍の帳に仕舞われ 
事なき終りの吐息で
さらり風行く 夜更けを呼び寄せ



新たに滴る
放たれた未来への憧れ 
響かせながら 淡く仄かに
暗宙に散らし撒かれた
遠い銀河の星屑のように
朧けに瞬いて 心を撫ぜ 
労わるような 優しさで
ただ、ほっと 途切れない明日を 灯してゆく

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