追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

虚脱した身心へ 無慈悲にも 度重ね上塗らる


まだ星月達の
煌々と覗いた
早朝の闇から
西陽の厳つい夕刻
まで
仕方のない精一杯
無気力になるまで
納得のうえ
目の眩むような忙しさ

食い扶持目当てに
働いただけ



沸点を越えた
脳味噌に
消火液を
満遍なく浴びせかける
最善の選択
冷たい室陰に
滑り込む





  薄窓帷で遮蔽された




  密閉空間に




  三輪車を漕ぐよう
  洗濯挟みつき
  物干し
  やつれた声音を運ぶ





しかし、現在時
既に
正常に機能しない頭が
気にかけている
脱ぎたての革靴



踵を掴み
持ち上げると同時
もやり湧きあがる



脱ぎたての
瞬間記憶が
顔面を覆うように
確然と
浮き彫られ





  噎せかえるほど
  生臭く
  異様な匂い
  は
  その死骸から漂う




  暗く染みた
  コンクリートに放棄され
  る
  毒針鰭が閉じた
  焦赤い斑外道
  の
  白眼玉を
  見詰めて
  爪先で突っついた
  羽音のうるさい
  蠅が散る
  一瞬
  また戻り
  幾つもの黒子が
  乾いた鱗に
  動きまわる、不規則に
  素早く歩いて
  飛んで付く
  そこらで
  くるりと廻って
  飛んで付く




  あの虎縞
  縁石の隣
  腰丈のガードレール
  溝川の出口 右角に
  生気を失った
  人気ない
  牡蛎打ち場
  は
  いつから稼働を止め
  廃れ捲った姿
  に
  変わり果てて
  いたのだろう




  潮錆びだらけ
  傾斜搬送装置
  の骨組み
  が無残に崩れ
  小漁港の海水に
  倒れ
  落ち刺さって
  わさ わさ わさ
  と
  単調に繰り返す
  青黴色の
  重たげな揺蕩いに
  も
  びくともしない





生温く緩んだ
定まらない思考
ぼやけて歪む
火照りやまぬ
平額の奥まりで
明滅す、
渦を巻く澱み



脂汗の滲むほど
執拗に
暑いばかり
昼日中に喰らった
ぶ厚い弧を被せ
充満する 
春跨ぎの熱光が



奔放に駆けた
少年時代の隙間に
残る
煤けた切れ端

投げ球を拾う賢い犬のように
またも遠くから
俊敏に引き摺り
持ち帰り
阿る素振りも見せず
そっと足許に置いて
逃げ去った

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