追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

ただ愉しげに 雨鳴りだけは

外気に晒された
柔肌を
引き裂くよう
辛い痛みを浴びせては
酷しい寒さは
また
何も告げず退いて


霧に霞む昼下り
隣で
しれっと
丸めた背中向け
不機嫌に口を噤む
恋人のような
垂れ籠める天上と
窓越しの宙空に揺れ散る
細やかな
惑い雨のなかに


いつかしら
胸に焼きついた
過去に出会った先達から
届けられた
短くも厚く
重みのある言葉が
うっすらと滲み


名前すら
覚えのない
微々たる蚊擬きのように
羽化して
ゆるり軽やかに
飛び回り
冷たい灰混じりの
沈んだ景色に
紛れてゆく



己のいい加減で
ブレ易い意志を
握り締め貫き進む
至るところ
不実のばら蒔かれている
気の許せない日々
その途中で
立ち止まるのは


いつもこんな
眩い陽射しの翳る日


自責の念が
胸ぐらを掴んで
詰め寄って来る


もう覆らない
幾多の出来事
二度とやり直せない
手繰ることさえ
困難なほど
遠く離れ去った歳月
取り戻せない
途切れた記憶



 胸の内で
 脳髄を
 掻き毟るように
 無心に足掻き
 そして振り払いながら
 駆け回り、
 逃げ続けて居るだけ
 ただの
 だらしのない屑野郎
 なのかも知れない
 俺は



今も消せない
遥か昔の過ちから


生気なく項垂れる
花瓶に生けられた憂い花を
押しつけられるように


その報いに


償うようにも
抗うようにも
そして
追われるようにも


それは、時折
自分を手招きし
呼び掛けるよう
ある日の、
明け方の枕元で
魘された
悪夢のなかでも


こんな
雨に濡れた
山間部に拓ける
どこから
眺めても
やはり辺鄙で
代わり映えのしない
工業地帯の片隅
手狭な一室でも



黴臭いような
砂利臭いような
湿気た匂いが鼻腔を擦る
くだらない
白けた気持ちと
苦い想い出の
欠片ばかりが
粉雪のように
ちらつく


眼の前に
曇らない
生暖かい吐息の味に
乾いた唇を
舐めては、
きつく閉じる
そんな
澱んだ陰に取り巻かれた
冬の午後に佇む
薄暗い窓辺で
 


 誰にだって
 勿論、俺にだって


 悲しくて
 悔しくて
 抑えきれなくて
 やり切れない気持ちに
 なる事だってある


 それが
 どうしたって
 腹の底から噴き出して
 止められなくなる
 そんな日もある


 こんな気持ち
 力任せにぶっ叩き
 原型を留めない程
 砕き壊し
 明日から清々した気分で
 始めっから全部
 やり直したい
 と
 此処からでは
 その輪郭すら
 掴めず
 朧気な影さえも
 存在しない
 崇高なものに切に願う
 そんな日もある



指跡だらけの
滑る硝子窓の向こう側
何気、横目で覗き
そっと斜に
視線を落とす


真っ黒な
アスファルト舗装路
長い窪みの水溜まりに
膨れた雨粒達が
増し注ぎ
隙もないほどに
夥しく波紋を広げ
とても賑かに
弾け合う姿が



仄かに煌めき
甘めに開いた、瞳に瞬く

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