追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

卑しくも非情な血

間違えない
俊敏で冷酷な爬虫類の
艶皮のよう鋭く



光り脈打つ
今、僕のなかに嘲笑う
穢れた血の色



入れ替えなくては
猛毒の混じる滑る液体を
また輸血が必要だ



過去三度の
難手術で
継ぎ傷だらけの身体に



一刻も早く
色濃い熱帯びる人間の血
取り戻さねば




湿気にまみれた
苦る空に大口開けて
膿を吐き出す



生きた言葉を探せ
生きた言葉を貪れ
生きた言葉を呑み込め



浴びるほどにもっと
押し流せ
無慈悲な色を



温かに
思い遣れることのできる
人間らしい心



際限なく湧きだす
欲望に蝕まれ
忘れ去るその前に

解け下る朱夏の熱

透き通る飛沫
振り撒くように
はじけては止む 翌朝の残雨



遠い景色を遮り
全方位に立ち込める
霧に呑まれた山林



白濁りのモザイクに
垣間見える
険しい木立の深く



絞り出すように
茹だる暑さ
名残惜しげに唄う



蛁蟟の叙情は
真っさらに
戻った胸へじわり沁む




それに重なり
甲高く、
より高く
快活に昇り響き渡る



寒蝉の繰り声



湿った涼しさ歓喜で満たし
余すことなく放ち
事切れるように萎む、
そしてまた




 見通せない空と
 木ぎれ葉屑の濡れ散る
 無人舗装路の上



 曖昧な楕円に
 囲われた空間で漫ろ
 和み佇みながら



 冷めた空気に
 そっと撫でられるよう
 洗われる身体



 流れ落ちていく
 拭えずにいた火照りも
 秒針に追われる焦りも



 そして
 投げ出したくなるような
 気怠さも、憔悴感も




漸く季節の
頂きまで
這い蹲りながら



何とか辿り着き
緩やかな下り坂
のんびり転がるだけ



そう思える安堵
に静か
心の耳をそばだてる




毎日のように
汗だくになりながら
働いては



蒸し暑い部屋に帰り
窓を開き、ぐったり
へたり込むばかりの日々が



まるで
彼方過去の記憶に紛れた
切ない夢の欠片のよう



浅い呼吸の隙間
ひっそり朧げ



ここ数年、
とんと出逢うことのない
夜蛍のように 
眼の前を瞬いてゆく


















蛁蟟(ちょうりょう)…ミンミンゼミの別称。

御盆出勤消沈確定

頭蓋のなかで
猟弾銃が撃ち放たれる



森木枝に休む鳥たちは
仰天し、



蒸した夕空へ
一斉に散り羽ばたいた




背中から
倒れ込んだのは何故か
六畳のマイルドな芝生



寸秒、皮膚呼吸まで静止



ぐうの音もでない
ぼろ布に成り果てた
役たたずな生もの



灼熱に蕩けた脳味噌で
何とか直立し続け
今日も日銭を稼いだ



嬉しいやら悲しいやら
汗だくを
通り越して汁だくで



湿り縒れた制服は
襟元から
得も言われぬ異臭



もぅやりと漂わせる



目分量の粉洗剤を
洗濯槽に振り撒き
お疲れさん、なんて



明日もお互い
頑張ろうな
胸壺にぽつりと労う




凝りまくってた
肩裏の筋が
漸く
ふぅ、弛む瞬間



とりま残り湯で
さっぱりしぃの



ふんわり卵入り
鶏ガラスープ
即席拉麺
ずりゅり啜りながら



ヘコんだお腹膨らし
蘇ろうかな白眼剥き
人鮮肉に飢えた
ゾンビ見たいにさ