追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

眠れぬ夜の小さな手紙


撫で下ろす胸と
 移ろう季節に
      今晩は。




展望台から見おろす
粒揃いの  街明かりで
敷き詰められ、
伸びやかに拡がる
煌びやかな情景のように



秋虫たちの賑やかに奏ずる
繊細で美しい 音律は
溢れるほどに
躰をとり巻く 闇へと踊り舞い
とても、とても 浮き立つように  綺麗で
すうっと  宙へ、 伸ばした左手
やさしく 軽やかに包みながら
擽るように  愛らしく震え 転がるようで



今日には見えない
星月たちも、暗く高い空の裏側で
聴き耳を立てている姿が
微笑ましく 思いうかび
静かに 揺らいで、
凝らせば  藍の艶色を背に
塗り込まれたかのよう
途ぎれ  隠れ、 そして
不意に現れては ほそく 瞬いています。



この
深更に紛れる
質素な庭には
ほどよく冷めた風が すべらかにそよいで
低い塀を跨いだ  荒れ地から
湿った脛丈草の 淡く、青い匂いが
鼻先を さらり  流れる
と、振り向く横目に触れた
まだ子供な 南天の枝葉を、
そそ そそそ そそ
と 柔らかに  さすり ゆさぶり
涼やかに 通り抜けていく 和む時間 を 
そっと 佇み、眺めています。



ただ、それだけのこと  ですが
 それだけの
取るに足りないこと なのですが
僕にとって
ただ それだけが、
気忙しく ありふれた日々に 疲れた
心を潤し、杞人の憂えを宥めてくれる
いま、唯一の
密やかな、慰みのようです。




寒暖の差が著しい この頃、
くれぐれも体調を崩されぬよう
十分に気をつけて お過ごしください。




それでは、
 遥か遠い 大洋へと向かう
 夏の帆影を 見送るように  
            またーー。

汚れはする 磨り減らない上履きと、  似て


仲秋の
未 明、 薄い紫の夜空は
ゆるやかに  集う
鈍雲の群れに酔いしれる
 色濃い
丸月を  描いて  弄ぶ



その裏側から 
屑星、たちの 
やわらかな微笑が 降り注ぐよう
夢見る森を下り
住宅の 犇めく路地に
滑りだし  普く散りばめられた
求愛の瞬きは 
今も 絶えまなく 傍らに



そばだてる耳へ
闇の寝息が また、ひとつ
遠くで唸って、
重苦しく歪んで 拡がり 立ち昇る
と、 呼吸を止めるように
俄かに失せた  た



  高い暗宙から 意識は
  雫の姿に凝縮され
  まるで 堕ちてゆくようで
  深奥の湖に 掌を叩く間に に
  刹那の速度で 点に向かい
  鋭く打ちつけ 強く弾かれ て
  飛沫になり、舞い上がる 
        暴れ 踊るように
  甲高く突き抜け 音の波は
  鼓膜を貫く  と、揺らぐ
  響き     き



錯覚、虚ろに
見上げた まま



  それ程にまで 不意に 
  漏れだすとする 掴めぬ雨の
  ひと粒に なり変わりたい  のか
  
  この 惰性に凭れる
  曖昧で ぬるい停滞   感を
  悉く   掻き乱したい   のか


  それとも 足首に
  纏わるような諦念から 逸早く
  遠ざかり、    逃れたい  のか 



  と



盲目に
細やかな  無数の根を、
澱んだ胸に 張り 巡らせて
平たい時の  過ぎ去る 末尾
 じわり  手繰るように
      取り留めもなく



眉に振れる
前髪を開いて そっと
艶めかしい  穏やかな風が
ほのか  酸味の混じった、 
淡い  蜂蜜の香り  を
続けざまに運び
歩みを 置いた  
吸い込まれそうに 傾斜のきつい
坂道の傍で
 無関心に閉じた   
            唇を、掠めている

湿った夕の傍ら

 くるくる 回る
 雨の歩道
 先ゆく、 まあるい  蝙蝠傘も


 ひやり と
 脹ら脛   触れ抜ける
 この小風も   その香りも


 街色を縁どり
 仄明かり 漏らす
 あの 訝り面した 、濁り雲 も



肌寒い朝  眠気を
醒まそうと、欠伸し 捻る
蛇口の取っ手も
テーブルに 並び 賑わす
毎度の   食事の献立も


何気に
スイッチを入れた
TVに映しだされる 眩い光景も
昼夜 休みなく動き続ける
世界の情勢も、  刻々と



 押し黙って  いても
  この地球   だって、 自転し
 つつ   公転して   いる



広い空を流れてゆく
太陽も 月も星達も 僕らを
じっと 見下ろし、 その影と


不意に
眼向けた 文字盤の上で重なる
秒針、長針、短針の  順に


頭のなかに
点滅する記憶も
四六時中  絶え間のない思考も
過去   未来を
拙く 捲る日々と 照らしながら


耳障りな蚊も
いつのまにか  姿を消して
蟋蟀の 細かに擦れる
羽音に変わり
そう 残り僅かな、夏の 季節も



 止めどなく 巡り
 表裏  全方向  あら ゆ
 る  もの が   また、
 揺らぎ   廻る  ゆっ 
 く    り     と


 顕微  鏡で 覗く
 ミクロ  から    宇宙
 機 でも  把 握   しき
 れない    最大限 の
 マクロ   まで    皆、



総ての
偶然に生み出された
 出会いから
避けては通れない、 必然の 別れへと




解けた水滴
 曇りガラスの窓辺に 
 さ迷う 虚無



僕は今、
玉響に委ねた
 朧けな 夢のなかに
 


か弱い
 望みの糸を辿るよう 
軽薄さの 滲む岸辺で



ただ  
その 上澄み を 
 時折か 滑るように  漂う 
それだけの、  燃え尽きそうな  
      逸れ魚なのかも  知れない