追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

白む吐息へ 彩る窓辺は こころに悴む冬を跨いで


遠い北から遥々と 
吹き抜ける
上衣を押さえて 爽風颯風
梢より
振り開け、そう
散るら ら るらら



煌びやかな歌声が
響きわたるような
大輪の色葉が 咲き乱れる
鮮やかな 眺望は
春の野原が靡くよう
いずれは総て
羽ばたいてゆく
残された、万枝の巣に
さよならを告げて




 あなたにも
 聴こえるだろうか



 仄か、零れだすような
 ささめき




ひと足先に
撫ぜやかな陽差し

しとしと
漏れだす 雪解けの
せせらぎが、また 快く流る
緩み始めた季節の
少し向こうで
僕らの歩みを心待ちに



いずこの、湖沼や
川浅瀬にも
和気藹々と集まる
渡り鳥たちのように



きっとそこが
常しえの夢に
描いた光を 象る場所と
導を示すかのよう
密やかに
優しく芽ぶいて
出迎えてくれる 暖かな時を





 転寝に寄り
 半歩、現に浸す
 脳裡へ放され




ふいに湧いた
憧憬の絵巻に
そっと重ねて 編み込むよう
悠々と、揺蕩う胸に
未だ 瞬く想いを
ささやかに綴り



徐に起きだし
窓辺で、睫を擦り
もう一度 見定めた
眼前から俄に広がる
秋の終に非ぬ
盛りの映えた 華やかな情景へ
静かに渡し、添わすよう
滑らかに敷き延べ 
艶やかに 澄み広ぐ蒼空へと、浮かべながら

濁りへ、ぽつり 徐に 揺り解ける水輪を 見詰めるように



時の刻まれるほどに
下へ 奥へと 抗えず
じわりと沈み、その光は
より遠ざかるように
そして、
原形を留めることさえ
許されないかのよう
色濃く寄せはじめた
妖艶に棚引く青灰雲に
巻き消されて
つかの間を照らし損ね
望みは、フラットに
跡かたも無く塗り込められた



  また、断続的に放たれる
  途ぎれない
  くぐもった機械ノイズの渦に
  委ねてしまう
  今にも
  乖離しそうな五体と
  浮遊する意識 は
  報われない吐息のように
  溶けていく
  曖昧に、もっと
  漠然としたものに



  この
  冴えなく淡い帳が掛けられたような
  物淋しい夕が
  今、独り
  どれほどの
  君が あなたが
  私が 僕が
  そこで、
  


  全てを 
  投げ出したくなるような
  耐え難い 虚しさ 
  と
  こ削げ剥がせやしない 
  せつなさ 
  と
  どれだけ繕ってみても
  拭い去れず
  癒せない、痛みだけが残る   悲しみに
  頼みの綱の 捌け口さえも
  逸らされ、隠されるよう
  降り頻 られて
  その震える胸を 
  ずっと深く
  圧して より濃密に
  曇らせているのだろうか



ここから
豪華に整えられた
凛と繊細な静けさが響き渡る
日本庭園、六千敷きほどの
湖ひとつ分 隔てた
不動が聳える場所
それは古からの標
なだらかな裾を 長く伸ばした
大三角の頂に向けて


フラワーアレンジメントのように
移り変わる
晩秋の樹々は
はにかむよう 微笑みながら
麗しくも さらりと彩り
しおらしくも 鮮やかに
儚い命を 永遠のうちに
僅か、一筋を灯す
紺夜を切りつけ
翔け抜ける 流星の過るような  刹那へ
温かく、
手を取り合うように
睦まじげに
終演の舞台を 自在に 
飾り立てているというのに




必然、
定め と 云われるものは 
こんなときに限って 
優しい嘘など ついてはくれない




よそよそしく
目近の柵元に生える 
枯れ褪せた 
ばらけ草を触り
通りすがる 風達だけが
いつか、継ぎ雨の前に
聞いた覚えのある
綿飴のように 甘く 柔らかな
湿った匂いを連れて ひそやかに、運んでゆく

セピア色の傍観

この間 幹線路と
脇道二カ所で 
  幅広タイヤに
  圧し轢かれた、
    血塗れの 亀を見た




 




  空になる








そそくさと、手早く
 破線を跨いだ
分度器型の
 駐停車スペースに
 ポイ捨てされた
 吸殻を拾って
原動機付
   自転車に跨り、
峠を下って行く
あの、ギンガムチェック
 の割烹着を纏った
 おばさん
 恰好 よかったな、
な、








駅前は、相変わらず
人で込み合っている
パチンコ玉みたいに 改札 
 から噴き出して
 ゴ ロ ゴ ロ
開発途中の
ロータリー工事現場で
ゆるやかに分裂し、
多方向へ別れて それでも
 ガ ヤ ガ ヤ
 街の みち筋を
そよ風の掬う水面が 
軽い ささくれを
運ぶように
横滑りしながら 進んでいく








  短絡的に
    思考して








郊外の
大地には 山岳を含め
多少の起伏
 勾配は認識できるものの
 しかし、
靴の裏側に
丸みを覚えるのは
足元に転がる
石ころを踏みしめた直後
 ぐらいだったりする
 この星は球体だと言うが
 その割に、
陸上から
曲がって見える海などなく
都市遠景の 眺めは
 撫で付けられたように
 どこもかしこも
 平べったい
一体全体、
 どういう訳なんだろう








  温度を
    取り戻し








昼は肌着姿で寝そべり、
夜中には
 両の腕さするほど
 寒く 震えるほど
と、すぐさまパジャマの袖
を通して
 そんな毎日を
 思い返し ほくそ笑む
定まらず  
移ろう秋は
  ひと手間かかる
   少し、変で
  寂しげな 時節 








  乾いてゆく








近くにいるのに
 遠くから
臨んでいる
いつしか、過ぎ去った夏に
置きざりにされた
大切な記憶
戻れない
輝きに
満ち溢れた、日々の欠片
幻影に揺らぐとき
留めどなく押し寄せ
また忘却に
くだけ落ちて
今、
  何処へ
        縷々と流離い








百十円で捌かれる
中古本の
幸運にも書棚から引き抜か
れた
  最後の頁の
  最後の一行に
     なりたがっている
のかも知れない
           僕は