追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

切っかけはいつも 不明瞭な恋 ーUnclear loveー


冷たさの戻りが
決して急ぐことのない春へ
穏やかに 放された空色
淡く、敷かれ列なる
雲の帯を見上げて ひとつずつ
擦りながら行方を追うと
遠く、ゆったりと鳶が廻る
凪いだ気温のグラフラインのように
なだらかな稜の 裏側へ
階を辿るように 降りてゆく姿



 すると、いつかの
 柔らかな真夏の海が現れる



ぴらちかと煌めきながら
艶やかに、目映く ああ
引き寄せられるように
水平線へと続き そして、その際で
瞬間が 生卵を床板に
飛び散らせてしまった時のように弾け
心景のさらに奥へと
つっと速く、滑り拡がり
長く途切れず 繋がって
いつしか 最先端の甘やかな光のなかで



 結ばれる
 絡みあい、溶け合うように



懐かしさが、すっと胸に揺らいで
浮き立つような恍惚の中に
解かれた羽毛になって
舞い昇ってしまいそう
少なくとも
否定的でない未来を描いているようで
こじんまりとする
それでいて、纏まりのない崖っぷち寄りの生活に
純水の滴が落ちる



 喜びは無垢に
 全身を包みこんで
 ときめきは華やかに 崩れていくようで



迷い旅の途中で
黄蝶々がふらり
住宅街の舗装路を横切る羽が、そう
淡い夢の残り香を漂わせるように
きっと どこかで
静かに蕾を開いた
暖かな季節の小花も、また
可愛げな
宛名のない呟き すわと
擽るような調べを添わす
せせらぎに浮かべて
微笑みながら そっと、見送るのだろう



 信じられることが、唯一
 現実を生きる力へと 変えられるのならば
 食い破りたい 雑念を



圧し留まる足元に
さらり乾いたベージュの砂が
少々キツめの、荒い風に巻き上げられて
運動場を縦横無尽に走った
誇まみれの あの日
もう、帰ることもなく過ぎ去ることが
思い出になるなんて考えも
細かに乱れた記憶と ない交ぜになって
気の抜けた炭酸を呑み込んだような頭へ
ぼんやりと 縺れるように
張りついているさまを
密かに想う
君の真摯な眼差し 背けるように
咽びだす夜更けに重ねて じっと、眺めている

×

非ログインユーザーとして返信する