追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

アスファルトへ打ち上げられた 人魚みたいに

そうなのか、本当に
重い衝撃を
突き抜けたときの動転
フォーカスされる 砕かれた空
刹那 崩れるように  墜ちてゆく視線
束の間の平穏から 投げ出されて
真っ黒が敷かれた底へ



錆びついた過去に
滲むような 脆い光の向こう
いつまでも割れない
アブクに塗れながら 八十年代のどぶ川で
カプチーノ色した浮き垢状に伸べり
ふわり軽やかに、流されてゆく  自分の姿を
不思議そうに見送るのは 僕



ZAP
切り替わる場面
掠れつつ記憶は
徐に魅する 地味なフィナーレで
顛末はどうだったのだろう
とちゃっ、と  陰気に跳ねた飛沫
戻すように 吐きだされる
くぐもる雑音と、きつい異臭



隣街の煤けた幹線道を潜った
巨大な汚水トンネルから 放りだされて
幼き頃に慣れ親しんだ
二級河川の抉れた脇腹に 漏れだしてゆく
こざっぱりとした
対岸へ跨いだ橋の  踏切端に 倒れる遮断棒
百メートル辺り遡る先で
遠い列車の通過を、けたたましく報せている
くすみだす夕暮れ



 不安定な心拍数に混乱して
 摩りかわる 虚構
 否、これは
 入り組んだリアル だったのだろうか



孤独な足音でさえも
大袈裟に響き始めた
渡り廊下へと繋ぐ
引き戸の上手の通気口から
滑り込む蛍光灯の、少し黄ばんだ明かりが
窓際で閉じる 厚いカーテンを
寡黙に波立たせながら


蒸した真昼から隔離された 
目映かった白の
狭い長方形の質素な一室は
石膏材のオブジェのように  彫りだされ
丑三つ刻への供物の如く
深夜の無重力感に 静かに浮かんで
ゆったりと漂うまま



高熱を帯びて
鈍くベットに預ける 壊れて消耗した肉体と
幾日も繰り返した 
手術後、点滴のしずくの
コジャレた 嘲りにも似た 小さな鳴き声が
まだ覚束ない右脳で
悩ましくリピートされる



ずきずきと鋭く疼き
頭蓋いっぱいに溢れかえったあとで
落ち着きをとりもどし
片腕を枕に 薄暗い爪先を眺めている、と
瞬く間に
弾けるように破れ去った
あの よく晴れた青いピースの面に
一度だけそれが 
迸り、とても美しく  連なった気がしたんだ
酷く崇高なもののように
そして 夢より出でるほどに
透き通り もっと冷たく 艶やかさを湛え
汗ばむ裸身と渇いた呼吸を  宥めるように しゅっ、と



 淡く辿る
 いびつな時間は
 壮大な宇宙の片隅に
 集まり 濃縮した
 しばたたく 天体の  サークルから
 また、そっと
 降り注ぐよう 
 細やかに 剥がれ落ちていく
 






ZAP…素早く動く、さっ、ビュン 急に動かすなどの意。

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