追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…見つけたこと、思ったこと、感じたことなどを綴っています。

憂い振れ奏づ夜色

記憶に開かる
連写のフィルムには
刻々と移ろう半透明な彩葉が浮かび
やわらかに流る風に 零れ舞う


孤独に泣き崩れるままに
彼方へ旅立った
儚い面影たちのように そっと


一片を拾い上げ
闇に塗られた虚空のしじまに放せば
胸に滴る涙の紫音はくだけ
細かな泡粒になり ふわり揺れ昇りながら
ガラス板の中 震え進む秒針の
寂しげな頷きに溶けて
夜明けへの永い道のりを泳ぐ



 抗えない
 弛まず響き渡る 時代の嘶き
 追われ退き失われゆくものへの 諦念と傍観
 ほんの僅かなひと駒でしかない 擬しさ
 転がり積もった猜疑の塊



 取り繕えない過去が
 冷たく凍える 心の溝にうずくまり
 厚く淀む沈黙のきれ間から
 温かな光 穏やかに差し込む朝を
 じっと眠り続ける
 閉めきられた青黒いカーテンの先に待ち望む



 蕩蕩と捲り 近づくのか
 手繰るようにも
 解けるようにも
 掴めず逸れゆく  戻せない時ーー



追憶に遠く
朧げに掠れゆく
いつかの
華やかな秋景を見送る視線は すっと
眼の裏に滑り落ちた
斜に閃く流星の余韻に


重く吐き出せない嘆きと
じわり苦い 哀しみの切れ端を
薄っすらと白みがかる 暗宙へ離し滲ませて






寄り立つよるべに幸せのカケラ

澄み拡がり
明るさに満ちた
十一月の空を渡る 逸れ雲は
長閑なパントマイム
気まぐれに浮かべ漂う


森を辿る
なだらかな曲がり路で
褪せた黒の毛皮を纏うスリムな旅猫
愛らしい撫で声 ひとつだけ残し
気品を湛えた足どりで
側溝の傍をしなやかに歩み
白やつれの増えた草むらの中へ
ひっそりと姿を消して


まだ小さな赤蜻蛉が
足元の細い枯れ枝のうえ
零れ紅葉のように ゆらり降りとまり
やわらかな陽光を浴びながら
透き通る翅 静かに休める



 冷たいはずの秋の風は
 温かな指先に触れるような優しさで
 しゅるら、ちゅるらと舞い游ぎ


 ひなびたアスファルトを横切る
 落ち葉はふわりと軽く
 からからと捲られながら
 少しだけ 愉しげに転がった



ふっと現れ
純朴を演じる脇役たちの
ささやかなドラマ
疲れた胸に沁みこんで
繰り返される 日々に積もった蟠り
じわり解され すうっと宙へ
高く離れて薄まり消える



ありふれた時はいつも
無口なままに
ひた向きに未来を目指し
絶えまない瞬間を縁どりながら
まるく繋がる 世界に結んで


穏やかに開ける景色は
ゆっくりと
新たな季節へ注ぎ そっと
明日に延びゆくキャンバスを塗り替えながら
遠く、果てなき物語
織りなすように廻っていく










さやか季節の余白に浮かべて

峠の森で
土砂崩れに抉られた爪痕が
乾き澄む空へ放される


秋づく景色を破ったまま
無残な姿をはだける 寸断された道路にも
やさしい午後の陽差しは
柔らかな温もりを灯す



乱れ草からむ
雑樹の透き間に
オリーブ色の池の水面は細やかに滲み
やがて 幾重にも連なる
さざ波を作り
煌びやかに瞬く星屑のような
光の群れを集めながら しんと
すべらかに現の大河へと運ばれて



はらり、すららと
歩みを向けた帰路の
トンネルの傍らに高く
黄染まる葉は しなやかに
掠れゆく暑き日々の面影を
移ろう刻の風へ 溢すように流れ落ち
その淡く目映い薄身を
ふわりと繁みに溶かしていく



艶めく黒髪を背中に
さらり揺らす懐かしい人影を
道程の先へ遠く 見送るように



そっと 振り返る
たまゆらを癒やす休息に
かけがえのない追憶の情景たち


ひっそりと鎮まる
安寧に満たされた部屋の
恍惚にほどけゆく 藍明の宙にのぼる


ゆるら
たおやかに靡く
鮮麗な彩りに包まれた
夢幻のフレーズを 未だ見ぬ遥かなる憧憬へ
導くように奏でながら