追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…見つけたこと、思ったこと、感じたことなどを綴っています。

寂れゆく風に心掬われ

遠くを数える
眩い光を放つ
ディスプレイの向こう側



雲行きの妖しい
黒ずんだ天上が広がる
そう、遥か彼方にも



僕らは時々
もう過ぎ去った
記憶の零す残像を見る



嬉々と脳裡に思い描く
今はまだ細やか
朧げなビジョンも



薄っすらと
くっきりと
視界の情景に浮かばせ



静けさのなか
揺蕩いながら
寡黙にそれを見詰める




どうしていつも
形のない
憧れの呼び掛ける声は



こんなにも近く
胸の奥底にまで
響いているというのに



風駆けるあの空は
いつまでも手の届かない
瞳の望む最も先に



素知らぬようにも
微笑むようにも
長い隔たりを保ったまま



散り退いた昔、
捲りゆく今も



変わらない姿で
さらり涼しげに
流れ続けていくのだろう

卑しくも非情な血

間違えない
俊敏で冷酷な爬虫類の
艶皮のよう鋭く



光り脈打つ
今、僕のなかに嘲笑う
穢れた血の色



入れ替えなくては
猛毒の混じる滑る液体を
また輸血が必要だ



過去三度の
難手術で
継ぎ傷だらけの身体に



一刻も早く
色濃い熱帯びる人間の血
取り戻さねば




湿気にまみれた
苦る空に大口開けて
膿を吐き出す



生きた言葉を探せ
生きた言葉を貪れ
生きた言葉を呑み込め



浴びるほどにもっと
押し流せ
無慈悲な色を



温かに
思い遣れることのできる
人間らしい心



際限なく湧きだす
欲望に蝕まれ
忘れ去るその前に

解け下る朱夏の熱

透き通る飛沫
振り撒くように
降りては止む 翌朝の残雨



遠い景色を遮り
全方に
立ち込める
霧に呑まれた山林



白濁りのモザイクに
垣間見える
険しい木立の深く



絞り出すように
茹だる暑さ
名残惜しげに唄う



蛁蟟の叙情は
真っさらに
戻った胸へじわり沁む




それに重なり
甲高く、
より高く
快活に昇り響き渡る



寒蝉の繰り声



湿った涼しさ歓喜で満たし
余すことなく放ち
事切れるように萎む、
そしてまた




 見通せない空と
 木ぎれ葉屑の濡れ散る
 無人舗装路の上



 曖昧な楕円に
 囲われた空間で漫ろ
 和み佇みながら



 冷めた空気に
 そっと撫でられるよう
 洗われる身体



 流れ落ちていく
 拭えずにいた火照りも
 秒針に追われる焦りも



 そして
 投げ出したくなるような
 気怠さも、憔悴感も




漸く季節の
頂きまで
這い蹲りながら



何とか辿り着き
緩やかな下り坂
のんびり転がるだけ



そう思える安堵
に静か
心の耳をそばだてる




毎日のように
汗だくになりながら
働いては



蒸し暑い部屋に帰り
窓を開き、ぐったり
へたり込むばかりの日々が



まるで
彼方過去の記憶に紛れた
切ない夢の欠片のよう



浅い呼吸の隙間
ひっそり朧げ



ここ数年、
とんと出逢うことのない
夜蛍のように 
眼の前を瞬いてゆく


















蛁蟟(ちょうりょう)…ミンミンゼミの別称。