追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

解け下る朱夏の熱

透き通る飛沫
振り撒くように
はじけては止む 翌朝の残雨



遠い景色を遮り
全方位に立ち込める
霧に呑まれた山林



白濁りのモザイクに
垣間見える
険しい木立の深く



絞り出すように
茹だる暑さ
名残惜しげに唄う



蛁蟟の叙情は
真っさらに
戻った胸へじわり沁む




それに重なり
甲高く、
より高く
快活に昇り響き渡る



寒蝉の繰り声



湿った涼しさ歓喜で満たし
余すことなく放ち
事切れるように萎む、
そしてまた




 見通せない空と
 木ぎれ葉屑の濡れ散る
 無人舗装路の上



 曖昧な楕円に
 囲われた空間で漫ろ
 和み佇みながら



 冷めた空気に
 そっと撫でられるよう
 洗われる身体



 流れ落ちていく
 拭えずにいた火照りも
 秒針に追われる焦りも



 そして
 投げ出したくなるような
 気怠さも、憔悴感も




漸く季節の
頂きまで
這い蹲りながら



何とか辿り着き
緩やかな下り坂
のんびり転がるだけ



そう思える安堵
に静か
心の耳をそばだてる




毎日のように
汗だくになりながら
働いては



蒸し暑い部屋に帰り
窓を開き、ぐったり
へたり込むばかりの日々が



まるで
彼方過去の記憶に紛れた
切ない夢の欠片のよう



浅い呼吸の隙間
ひっそり朧げ



ここ数年、
とんと出逢うことのない
夜蛍のように 
眼の前を瞬いてゆく


















蛁蟟(ちょうりょう)…ミンミンゼミの別称。

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