追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

濁りへ、ぽつり 徐に 揺り解ける水輪を 見詰めるように



時の刻まれるほどに
下へ 奥へと 抗えず
じわりと沈み、その光は
より遠ざかるように
そして、
原形を留めることさえ
許されないかのよう
色濃く寄せはじめた
妖艶に棚引く青灰雲に
巻き消されて
つかの間を照らし損ね
望みは、フラットに
跡かたも無く塗り込められた



  また、断続的に放たれる
  途ぎれない
  くぐもった機械ノイズの渦に
  委ねてしまう
  今にも
  乖離しそうな五体と
  浮遊する意識 は
  報われない吐息のように
  溶けていく
  曖昧に、もっと
  漠然としたものに



  この
  冴えなく淡い帳が掛けられたような
  物淋しい夕が
  今、独り
  どれほどの
  君が あなたが
  私が 僕が
  そこで、
  


  全てを 
  投げ出したくなるような
  耐え難い 虚しさ 
  と
  こ削げ剥がせやしない 
  せつなさ 
  と
  どれだけ繕ってみても
  拭い去れず
  癒せない、痛みだけが残る   悲しみに
  頼みの綱の 捌け口さえも
  逸らされ、隠されるよう
  降り頻 られて
  その震える胸を 
  ずっと深く
  圧して より濃密に
  曇らせているのだろうか



ここから
豪華に整えられた
凛と繊細な静けさが響き渡る
日本庭園、六千敷きほどの
湖ひとつ分 隔てた
不動が聳える場所
それは古からの標
なだらかな裾を 長く伸ばした
大三角の頂に向けて


フラワーアレンジメントのように
移り変わる
晩秋の樹々は
はにかむよう 微笑みながら
麗しくも さらりと彩り
しおらしくも 鮮やかに
儚い命を 永遠のうちに
僅か、一筋を灯す
紺夜を切りつけ
翔け抜ける 流星の過るような  刹那へ
温かく、
手を取り合うように
睦まじげに
終演の舞台を 自在に 
飾り立てているというのに




必然、
定め と 云われるものは 
こんなときに限って 
優しい嘘など ついてはくれない




よそよそしく
目近の柵元に生える 
枯れ褪せた 
ばらけ草を触り
通りすがる 風達だけが
いつか、継ぎ雨の前に
聞いた覚えのある
綿飴のように 甘く 柔らかな
湿った匂いを連れて ひそやかに、運んでゆく

×

非ログインユーザーとして返信する