追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

想い出は葉屑のように

待っているのかも知れない
あの日からずっと
遠く夕陽が照らす


東の暮れ空を見詰めながら


待っているのかも知れない
記憶の中でずっと
薄闇に染まる峠の池畔


冷たい風吹くベンチに佇み
震える手の平を擦りながら


追憶に転げ増えゆく落葉


待っているのかも知れない
何もかも無茶苦茶に
ぶち壊してしまいたい衝動


胸の奥底に押し殺したまま


待っているのかも知れない
ただ腹をすかせ
このどうにもならない世界に


追い立てられてせかつく
気持ちを抱え込んだまま


虚空に放たれ続けるものを
留めることも出来ずに


見送ることしか出来ずに



眼下には家屋も疎らな
田舎町が灯り始めて
その小さく眩い光の中に


六年前の、あの瞬間


川筋を辿る幹線道で
青信号へ変わる
横断歩道を待っていたのか


俯いたままでそこに


立ち竦んでいただけなのか
君の寂しげな素振り
滲むよう透けて現れ


悔しい気持ちが込み上げる


瞼をぎゅっと閉じて開き
沈めようと暗宙を眺めた


暫くして、もう二度瞬くと


くっきりと近く柔らかに
新たな宵星 背に映して


今でも大事に仕舞っている
緑の公園の写真に収まり 


真白なワンピースで屈み
円らな優しい瞳で微笑んだ
君の姿がほっと浮かぶ


それがとても綺麗で 愛おしく
想えた吐息が零れるほどに

名無し草 ─At the foot of the usual road─

西空へ夜はぐれ星残し
明るみ始めた
仄暗い早朝の幹線道で
排煙の苦臭いトラック
疎らな車達がすっ飛ばす


俺は俺でいつものよう
気忙しく心拍数を上げ
原チャを唸らせて
小賢しく、ぶっ飛ばす


山裾のバイパスを潜る
脇道へと左折する
道なりに進んでいけば


痩せ川の橋路に繋ぐ高架下
辿り登る緩い勾配の頂に
Y字、十字の複合交差点


そこの赤く滲む信号に
毎朝引っ掛かるんだ


路肩に寄り足置き欠伸
目先下見てたら 
なんか生えてるんだよな


歩道に沿う縁石と
油の抜けたアスファルト
その継ぎ目を吹き破り
立ち並んでいたり、
ぽつんと佇んでいたり


そういえばさ
よく見てるんだよな


普段は余り
気にも止めないんだけど


今日はまじまじと眺めた
か細く尖った秋稲色が
小さな枯れ芒にもみえる
雑草なんだよな、
名前なんか知らねえし


不意に思ったんだよ
その姿を十分に歳食った
自分の将来に重ねたのか
もっぱら在り来たりだけど
逞しいなって、それでも


酷く辛いことだって
深く哀しいことだって
凄く嬉しいことだって
煮えくり返るほど
腹立たしいことだって


きっとな
色々あんだろうけどさ


どんな陽に降られようが
どんな風に吹かれようが
どんな雨に打たれようが
どんな雪に被られようが


どんだけ激しく弄ばれ
ひん曲がったりしても
また真直ぐにしゃきっと
胸張って伸びてんだよ


ひっそりと
人知れず踏んばりながら


スゲえよな本当に
俺は給料貰ってやってる
だけど雑草たちは寡黙に
どんな境遇に育っても


文句のひとつも垂れず
仲間を増やすことに
限られた一生涯を捧げて
びっちり地中に根を広げ


堂々とそこを居場所に
頑なに暮らし続けている


ずうっとだぜ?
そう、枯れ果てるまで
邪魔もの扱いされて
引っこ抜かれちまって
塵袋にぶち込まれるまで


俺も何れそこまで強く
どうなんだろな
未来の事なんざ
全然見当もつかねえが
なれたらいいなって


やっぱ見習わねえとな
そんなびしっとした
ブレない生き方なんて
てんでやわな俺にゃ、
無理かもしんねえけどさ























※At the foot of the usual road…
 いつもの道の足元に。

おでんの種が芽吹く季節に

きっと
逃避願望なんだろうな
冷んやりとする山気
狭い登坂路に被さる木陰


久々のんびりとした
ブロッコリー型の雑林
入口付近に届き集まる
極めて密やかな囀り


何気に胸撫で下ろし
兎にも角にも落ち着く
山裾のありふれた場所


無心でゆるり歩みながら
寒気に移ろう樹々や落葉
周りの景色を眺めている


舞いながらひとひらが
そしてまたひとひらと
間近にも秋風に煽られ


アスファルト舗装に
音立て降り転ぶ 心地よく
続く風浴び瞼を閉じると


いつか見た覚えのある
洗剤のCMが瞬きに合わせ
眼の裏に薄らみえた


緑の芝生の広い庭に
金髪で異国育ちのママが
満面の笑みを浮かべてる


沢山の真っ白なTシャツが、 
物干しに並べられて
清しく吹き抜ける涼風に


嬉しそうに踊り 燥ぐ
子供たちみたく靡いてる 
ソレになりたいのかな?


揉まれ終わってさ
きれいさっぱり
洗濯ものたちみたいに
晴天の眩い庭に干されて


じめじめした
万年床のよう重く湿った、
変わり映えしない気分を
乾かしたいのかな


何なら
風に吹かれついでに
あひゃひゃと笑いながら
ひょいと宙に舞い上がり


そのまま何処までも
ふらり飛んでって
お約束ルーティンの檻から


いつの間にか
ぽーんと投げだされ
流されちゃってしまいたい


ああ、あり得ない妄想
それこそ正に己のリアル
飽きちゃってる証拠だ


旅にでも出ましょうか?
いやいや 暫くは無理かな
年がら年中忙しく続く日々


せせこまし時に託けて
産めや増やせや
タスクのオンパレード


あれよという間に
またも締め切り寸前
焦燥感に駆られる戦慄


堆積してゆく虚脱感
疲れ易い体質なんだから
こりゃま考えても
仕方ないね御ゆるりと


今夜は、
おでん種達に仲間入り


なみなみと満ちた
温かいお風呂に浸り込み
身体を癒して明日もさぁさ
程々気楽に頑張りましょか