追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

線香花火 ─Summer Fling─

曇りがちな日々に移ろう
猛暑を脱した
乾いた晴天 緑の高台
吹き下ろす風は踊りながら
煩わしい作業着の
皺くちゃな長袖シャツん中を
心地よく潜るんだ


別に変わったこと何か
全然ありゃしねえけど
ただ煮え滾る真夏の監獄から
漸く抜け出せた感が
すっきりとくっきりと頭上に
だだっ広く澄んだあの空へ
映り込んでる
そんな気がするだけ


そうさ
現実は何も変わりゃしねえ
けど恋活も転職ももう既に
年齢制限とうに越えてて
有象無象の残り滓に
ありつけるかどうかさえ
気がつけば瀬戸際
曖昧微妙なラインだったり


何だかな、世間との
ホウコウセイノチガイか
外面の俺とさ


結婚しろって今更なぁ
ご冗談 無理無理そんな 
勘弁してくれ
確かにそりゃ普通だけど
俺は気楽にやりたいだけさ
人それぞれだよな
生き方って色々違うだろ


皆一緒でハッピーかな?
皆んな違うからラッキーが
生まれるんじゃねえかなって
どうなんだろな
真偽の程は定かじゃねえが
少なくとも俺は今
何となくそんな気持ち


憧れのあの娘は今も
胸の中で優しく微笑んで
新しい恋 探し続ける俺


留まれない道を
勢いそのままに
周りに促されるように進み
すれ違う美人たちに見惚れ
透き通る面影を重ねて
どうせ結ばれぬものならば
と、
勝手な物語を脳裡に紡いでは
人知れず快楽を求め
週末の 賑やかな都会で
路地裏を彷徨う 迷妄
静か過ぎる夜闇にか弱く
弾ける火花の匂いが瞬いて
酔いどれ儚い夢を見る























※Summer Fling…ひと夏の恋。

しがなき俺の卑屈な気持ち

どっかに開いた針先程の
小穴から空気の抜けていく
萎んだ浮き輪に掴まって
自棄くそでバタつき


疲れて脚を伸ばしゃ
足着く浅瀬にまだ独りきり
遠い海原はまるで蜃気楼
一向に近づく気配なし


おぅ、見詰める両の瞳は
涙の滲む虚しさの双眼鏡


俺ぁここ数年
無我夢中って程じゃないけど
懸命にぼちぼちとぼり
マイペースで坂道登り
愚痴や文句を吐き捨てながら
それなりん踏ん張って来たと


何と無し、進んでんだか
ぐるぐるぐるぐる廻ってる
ただそれだけなのか
よく分かんなくなっちまう
猛暑に支配された日々に
埋もれて気怠さに骨抜き


小奇麗にデコレートした
胸張り宣言できるような


夢や希望なんて端っから
持っちゃいねーけど
それに似たようなもんが
信号待ち傍の街路樹に
ギンギン喧しく木霊する
油蝉の大合唱の中にあの日
ふわふわ揺れて見えたのさ



台風で花火大会は中止
真夏の愉しい思い出が一つ
おじゃんになった
結局あれかい、辛子の効いた
柔らかい氷柱みたいな
ちべたい心太と盛りのついた
白昼夢みたいなメイクラブ


何の脈絡もねえもんが
朧げな追憶の欠片んなって
どうせまた んばばといつか
粉微塵に砕けてくだけなんだろ
他人のことなんかろくすっぽ
考えてる余裕もなく
いつも目の前の自分のこと


そればかりじゃ
つまんねーのも仕方ねえか


直撃は免れて暴風圏外
車窓には滑りゆく
曇上天に黒ずんだ東郊の眺め
特大ジョロで豪快に水撒き
そんくらいの酷い雨が
ほぼ断続的疾駆の最中に
意気なし何度かじゃじゃぶり


やたらと眠く至極ケツの痛い
長距離ドライブに弾けてた


今年のお盆も行かず仕舞い
かったるい墓参りなんかよ
無料ネット動画の坊さんの
先祖供養のお経を聞き流し
リモートの念じ参り一発で
そ、手っ取り早く済ましたさ
やっぱし俺は汚屑で能足りん
糞罰当たりなロクデナシ野郎だ

With my dizzy head ━抜け出してクラつく頭で━

膨れた熱を孕んだ空気
だらしなく脱力した
昼間の部屋を記憶に浮かべ
寡黙さだけが躰を素通り
浅い溜息 唇から漏れ


静かこめかみに意識は滲む


僅かばかり開けといた
少々破れた障子戸と
格子柄カーテン越しの窓から
未明の涼風 仄かな柔かさが
瞳を閉じた横顔に触れる


その感覚は寄る辺ない
ちゃちな俺の心を
見透かすように沁みて
居たたまれず得も言われぬ
孤独さから逃れるように


二段重ねのボール箱みたく
安っぽい肌色の家をでた


暈け暗の中途半端な時分
ほとんど車の姿も見えない
街道をすっ飛ばしていく
この街で今起きてんのは
コンビニの店員と変テコな輩
新聞配達に勤しむ連中


徐々に掠れ淡くも青く
溶けだす空を見流して
翠黛めざし急坂を駆け上がる
そのうねり登る弓なりのカーブ
豪華な慰霊の花束 瞬時に
脳裡に焼きつき離れねえ


淋しさ清しさ混ざり
不甲斐なさと悔しさ
妙な鬱憤も序でに引きずって
この降って湧いたど辛い夏も
乗り越えて行かなきゃなと
思いを巡らせながら


より高く濃く深く
蛇行を繰る 冷気を帯びた
舗装のいびつな狭路
小型のバイクで漕いで


ああ、氷みたく冷てぇ
モスグリーンのアーチを
幾つも何回も心地よく
潜り抜けているうちに
いつの間にか
辿り着いちまった 
南の湾を見下ろす展望台に


汗だくの気持ち
荒れ風が軽やかに踊らせる


そこには途絶え掛けた
無数に拡がり
散らばる建物の疎らな灯り
パノラマに伸べる
霞み連なる長影絵の島々が
この手で掬えそうなほど
間近にみえるってのに


落ち着いて呼吸を宥め
見守る 細やかに
綺羅つく眺めをそして
消えかけちまう 夜深の魔法
刻々と艶の失せていく
状景から踵を逸らせば


昇りだしたばかりの
数時間後にゃ
灼熱のサンライズ 右の眼尻に
グラスオレンジの光塊が
棚引く燻み雲の積もった
東の彼方の空を
燃やすように眩く照らし
この残酷な世界を、また
入念に染め始めてやがる
























※With my dizzy head…
めまいがする頭で。