追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

瞬く幻影の淵へ 彷徨いただ無心に 落ち委ねるままに

完全な真夏の
熱い陽射しを
全身に浴びながら
火照る肌を潤すように
すうっと靡く
絹帯のような
風が触れる、時に



側道を足早に
進む
人影
洗い晒しの
爽や香りを清しく退ける
そのなかにはきっと
浮きつ流る
粒汗の匂いも



前面に背に
見渡す
ストレートロード
この道は遥か西空の
積乱雲まで遠く
繋がっているようで



そして
頭上に
弧を描き昇る
一天の強い輝きは
眩き青空を色鮮やかに
引き立てる総指揮者



燦々と
奏でられる
煌めく多彩種の
宝石が降り注ぎ
散りばめられた緑の都
大洋の海面のように
揺蕩いながら
綺羅ら
びやかに魅せる




これは昨今に
過ぎた
場景の残映なのか 
これから
訪れる未知憧憬の 一齣
なのか 
虚ろに、游ぐ現
顕在意識
と確かに結ばれず




 眼前に瞬間
 白い閃光が溢れ



 砕けるよう
 自分のなかへ沈み込む



 派手に生まれる
 歪む泡の響き




脳随の深く
松果内部に
解けて、踊り漂う
艶めき透き通る
波底にそよぐ珊瑚のよう
柔らかくしなう
長くもなく
短くもない



一片の途切れ糸が



今にも
この差し伸べた
指先へ
届きそうに
濃い湿気に膨らんだ
中空の薄膜に
放され
ゆうらり
密やかに明滅す

胸撫で晴らす 梅雨の戻りに

久方ぶり
夏夕刻の空に鈍く転がる
豪大な重低音



せなせな
と寂しげに下る蜩の声は
次第



仄明る
薄帷の向こうで



人気ない通りに
浮かび始めた
細かな雨脚の響くなか



遅れ拍子で
地面に打ち弾ける
甲高い雨垂れに



また一瞬
手品のように隠されては
か弱く零れる




耳を澄ませば
嬉しそな
かわずの遠鳴き届き



もうひとつ
すぐ傍に
一匹の夜虫の小鳴く



その
冷やされた空気は
肩肌を擦り



静まり返る
片田舎の住宅街を
しっとりと浸す




 所用は済ませ
 欲するまま
 短眠を繰り返す休日



 誰にも気兼ねなく
 脱力した身体を
 十二分に癒せる休日



 思い起こし
 思い煩うこともない
 ニュートラルな休日



 穏やかに運ぶ
 涼やかなときを眺める
 充ち足りた休日



 生きていればそれで
 何はなくとも
 そんな風に思える休日




普段よりも
のんびりし過ぎて
いつの間にやら



眩い細流に瞳ごと
引き込まれ
夢見るよう時は進み



気がつけば



宵闇に染められた
落ち着いた黒の天井を
見詰めている

時として飛躍し過ぎた内在的思想は昇華へ至らず

峠の脇路の下り
上目に坂を眺む折
斑模様に流れる



汚れ雲間から照す丸陽



山型に
アスファルトへ落ちた
木陰に留まり



しおらかに戦ぐ
枝葉の涼を
無意識に嗅ぎ過ごす




と不意に颯爽
圧倒的な勢いで吹きつける
突風が緩い眠気を揺すり



その直後
多次元宇宙の
あらゆる処



梱包緩衝材の空気玉
一粒を両手指の先で
摘まみ潰したときのような



小さくも
絶大な爆発が起こる



頭脳中枢に
ランダムな衝撃波



くだけ散る
雑多な記憶



それは種々様々な
欠片の再集積を呼び



新たなる
惑星が生成される



時空を越える因果の普遍



煌めきと閃きと
ときめきが
混同される瞬間



猛暑に絞り出された
浮き汗は萎み



さらり振り撒かれる
永遠への道程



細糸が引き放たるよう
小蝉の声は
カラフルに宙空を貫く




ーーにも拘らずまた
生暖かく優れない空に
不穏な薄明かりが滲み



荒れ狂う嵐の気配が
無防備な
背中を這い回る感触



困り顔とハの字形に
寄ってしまう眉毛



暗転する
煮え切らない盛夏の午後