追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

満ち溢る 薄紅の頃へ想いかけて

追うほどに 延べ進む
淡き青と見馴れた街の
止めどなく繋がる
あの幸先の景色へ 僕らは
いつになく上機嫌で
振り放つように賭し 
飛び立つように駆け
また廻り来る
未知の風に伸せて きっと
導を残し より遠く
悩みの尽きない、世界を誘うー



「素敵だね」って、そんな言葉
期待してる訳じゃなくて ただ



一体、何が観えたんだろう
零れ落ちた束の間に
この丸い 瞳の奥に


阿る毎日に、断ち離せない日々
果てなく囚われるように
流れゆく 歳月のなかに



ほんのりと微笑み携え
色づき始めた、季節の畔で



解れた心が詠うだけ
拭い切れない虚しさと
遥かへと 長ける願い
ともすれば
砕け散りそうになる 未来を
そっと、掌へ包み込むように


履き違えてなんか居やしない、と
誰しも思うこと
有りの儘に描かれる
素直な気持ち
伝えたい 投げだした胸に
問いかけながら



やっかいな現実に藻掻き
今にも打ち拉がれそうな



吐きだせない孤独と
闘う君へ
雁字搦めから逃げ出したい
あなたと
そして、決して譲れない
自分のためにも



本当の春は、もうすぐ
穏やかな陽の降りる
身を寄せたベンチの隣に
そより 懐くような
甘い薫り 
静と囁き、運んでくれる

騒めきの外れで ーただ、儘に添わす心の色を

澄みやかに綴られる
軟らかに冷やり
滑らかでいて 
そして、しめやかに通す
山気の海を 漕ぎ進み


うねる螺旋の帯
無暗に振り伸ばしたような
峠路、とつと逸れて
行き足と追い熱 途中へ置き残し
未だ、囀りの届かない
森なかを歩み降る
人影なき長い坂道に
葉なし並樹は
ゆったり、すらと 流れ過ぐ



 香り立つように
 心地よい朝の陽差しは
 程高く、斜に掛かり
 


ほごり藪に囲われた
径を辿る頂きに つと
霞に青く暈されて
波うつ連なり 普く盛られ
しなやかに
眺めへ染めて浮き聳ゆ


ざくり、と音潰る
踵の日陰に霜柱
寓話に営む小人の
密かな 隠れ家のようで



 弧を寝かす 
 僅か切り爪ほども幅のない
 あの幼気な冬芽たち
 裸の細い枝越しに
 どんな春を 夢見て眠るのだろう、か


 徐に踏み返す
 憩い屋根ひとつ、佇む開け場に
 黄白い沙めく枯草
 寒々とはだけ 足許に散り撒け、転げ
 その解け身で 何を想い、移ろいに託して
 煽り風に捲られて往くのだろう、と


 また新たに 
 そよぐ季節を手繰るよう
 紅は仄かに ほつと 
 端辺に生ける
 慎ましき、常緑の繁みを縁どり
 乾き抜ける場景
 そふと 温めるかのように



緻密な回路が
隈なく 瞬間を刻む世界で
透き放される 時の空白に
溶け込んでしまいそうな
いつかの束の間に
成り果てる前の、今の間も



撫で下ろす吐息
漫ろう 宙へと舞い発ち
ひっそりと弛まない鼓動
縺れもせず 胸の内で
とくん、と微か弾むよう 悠と


とほり、震え落つ雫
か薄い拭き布へ じわら伝い
滲み広ぐように
しっとしと和む
安寧を紡ぎつつ 響き、游けながら












追い熱…歩いた後や走った後に訪れる火照り。
ほごり藪…ほどけ乱れている藪。

微睡みの夢路に雪はまた降り染む

淡いセピアに
落ち着く彩色を滲ませ
息潜む、森の風景は眠るように
とても柔らかで
そして寂しげな陰を担い したためて


干上がりそうな
濁る水溜まりにも似た
剥きだしの砂底が
殺伐とはだく 荒地の姿を模す
郊外に見受ける公園の
グラウンドほどの窪みを
覗き込むように 取り巻く



無造作に差し置かれた
真っさらな画用紙だけが
どこまでも張り敷かれたような
低い空は
放された東へと遠く
眺めの許されるかぎり 途切れず 



足元には 生艶の褪せた
波打つ落ち葉の
ブラウンベージュとピンクが
入り乱れ、肌を寄せ合い
そのなかに
芝生じみた
ふかふ と沈む
しなやかな這苔から食みだす
刈り去られた 束茎の鋭い撓りが固く
ゆっくりと踏みしめる
身の圧しを拒みながら



 小さな綿毛のような塊が
 宙掻き 游ぐように
 ゆらりと ふらと
 漂い始める
 ひとつ ふたつ と継ぎ



 そう 藍夜に満ち過る
 綺羅星たちのように
 数え切れず 増して舞う
 戯れあい、跳ね行き
 駆けくぐり ぽつと さやら



 つらつやと露に骨ばり
 三日月形に立ち並ぶ 桜樹の銀枝と
 重なりはぐれ
 定まらぬまま
 ふっと辺りへ 乗り崩け



 冬らしい情景は
 果無さを帯びて じっと
 振らずに据えた 眼に流れる


 捌け澄み 震えを誘う
 凍み入るような酷しい冷気に
 くるまりながら


  
  こんな折どうして
  四方ぐるり仰ぐように
  胸躍らせて すらり、見回したい
  と 衝動は押したてるのかー



 しんと
 ただ、丸く 膨やかな象りは
 眉根から吹き謳うように 散り
 すゆと ふわら
 愉しげにそよぎ
 くるり はしゃいで



  何も、決して何も
  手を伸ばし掴めるものは
  ここに在りはしない筈なのに


  熱い涙の、うつと
  湧きあがるほどに
  間近に触れ添う 温もり
  仄かに点す 優しさ
  遍く包み宥める 慈しみを
  掬い、童心の奥へ
  深く注いでしまうのだろうかー



このまま 時を止めて
どんな痛みも、嘆きも
叫びも、迷いも、逡巡も
全て棄てて


今だけは この場所に
傷つき、強ばる
両の羽をたたみ
逸る世間を忘れ 静かに委ね


そっと透き
延る闇先で零るよう
ほろり照らす
望みへ繋ぐ 切なる想い
ずっと、解けぬように きっとーーー










生艶…生やかで、活き活きとした艶の意